9月17日の説教要旨 「奇跡の愛をあなたに」 キスト岡崎さゆ里 宣教師

ルカによる福音書8:40-48

*奇跡を求めて

本日の聖書箇所はイエス・キリストの奇跡の一つです。「奇跡」なんて眉唾(まゆつば)だと思いつつも、自分の力ではどうしようもない出来事や困難に直面し、無力を思い知らされるときには誰しも奇跡を求めないでしょうか。
本日のお話に出てくる一人の女の人、彼女もそうでした。この人は今でいえば、不正出血で12年間も苦しんでいました。それなりにお金持ちのお嬢様だったのでしょうに、医療費のために全財産を使い果たしても治らないままでした。
聖書の時代、舞台になっているイスラエルでは、この女性の病気は「不浄な病」であり穢(けが)れが伝染する病とされていました。だから誰も彼女のそばに寄りたくもありません。のけ者にされ、差別されていました。しかも病気の原因は?不品行の結果の性病とされ、つまり自分のせい。そして周りからそういう扱いを受けていると、身に覚えがなくても自分自身もそう思い込まされていきます。
その彼女が、治療奇跡を行うイエスの噂を聞きました。「今度こそ治るかも知れない!」と必死の思いで、皆に気づかれないよう大勢の中に身を隠して待っていました。しかしやっとイエスが到着したところに、ヤイロという男の人が来て「どうか私の娘を助けて下さい」と頼み、イエスはその願いを聞き入れてすぐに発とうとしたのです。ああ、イエスが行ってしまう。彼女は取り憑かれたように手を伸ばしました。そしてイエスの服に触れた途端、出血が止まった!確かにイエスの奇跡は本当だった!普通ならこれでハッピーエンドです。

 

*彼女を探すイエス
ところがお話はこれで終わらないのです。なぜならイエスが、自分に触った者を探し始めたからです。とんでもないことになった!穢れた自分が触ったのだ!彼女は、社会的にも地位の高い会堂長のヤイロと違ってイエスの御前に立って願いを申し立てるなど出来なかったのです。怯(おび)えている彼女をイエスはしつこく探す。なぜ?もう病気は治ったのに?
しかし主イエスは知りたかったのです。誰が、自分にさわったのか。服の房にすがりつくようにしてまで助けを求めた、その苦しみを分かってあげたかった。そしてどうしてもこの一言を言ってあげたかった。「娘よ、あなたの信仰があなたを救った。安心して行きなさい。」

 

*不安から解放する愛
「あなたを治した」ではなく、「救った」というのです。私たちは何から救われたいのか。病気や事故、老い、いろいろな障碍、いわれのないいじめや中傷、それらは私たちの心を弱くします。その苦しみが取り除かれることを求めて、お祓(はら)いやまじないまでして奇跡にすがります。しかし不安材料は無くならず、心の平安は訪れません。私たちの心底の願いは、たとえ何があっても一人の人間としての尊厳を持ちたい。そういうことではないでしょうか。だからこそ主イエスは病をいっとき癒やしただけでなく、自ら彼女を探してくださったのです。主イエスの奇跡は「力」そのもの以上に、愛なのです。

 
*光に導かれて
聖書の神は愛です。高い所から人間を見下し、運命を気まぐれに操っているような方ではありません。あなたが苦しんでいるのに耐えられなくて、本当に近くに来て寄り添ってくださった。それがイエス・キリストです。ですからキリストは人間の味わうあらゆる種類の苦しみを味わいました。親しい人にも理解されず、自分が骨身を惜しんで助けた人たちにも裏切られ、神の子なのに十字架に磔(はりつけ)になって死んだ。しかし、イエス・キリストは苦しみの果ての死から復活されました。キリストの復活は、私たちの苦しみを罪の罰とせず、その先に希望を与えてくださったのです。
仏教では人間の人生全体を四(し)苦(く)(生(しょう)老(ろう)病死(びょうし))といいます。ではこの苦しみをどう生きるか。先の見えない暗闇の中を迷いながら不安に行くのではなく、光に照らされて正しい道を歩みたい。キリストは光として愛をもって一緒に歩いてくださるのです。そして困難に遭うときもキリストを信じて手を引かれて歩んでいると、つらい道のりだが悪くない。必ず得るものがある、恵みがあり、成長しながら歩みを進めることが出来るのです。

 
*「信仰」も与えられる
最後に、私たちは最初からこの「信仰」があるわけではありません。しかしそれでいいんです。この物語の彼女ももともと迷信のようなものでイエスの奇跡を求めたにすぎません。しかし主イエスが、彼女の迷信を信仰に高めてくださいました。「あなたが私に信頼したので、あなたは一切の不安から救われた。これからは私がいつも一緒にいるから、安心して行きなさい。」と言ってくださったのです。この時初めて、彼女は本当の救い主に出会うことが出来ました。主は私たちを探して、自ら出会ってくださるのです。これが本当にアメイジング・グレイス、驚くほどの恵みなのです。